学んだことが実践できない...リスキリングを行う社会人が年々増えている一方で、「学んだけれど使えない」という課題を抱えるケースも同時に増えています。これはもしかしたら学びの「ゴール設定=目標設定が間違っている」からかもしれません。この記事では学びを成果につなげるための学習目標=学習成果の5分類について解説していきます。学習成果の5分類とは学習成果の5分類の定義と概要学習成果の5分類は教育心理学者ロバート・ガニェが提唱した理論で、学習によって得られる能力を5つのカテゴリーに分類したものです。この分類は学習者が何を学び、どのような能力を獲得したかを明確に示すことができる枠組みとして広く活用されています。5つの分類は、言語情報、知的技能、認知的方略、運動技能、態度から構成されていて、それぞれが異なる種類の学習成果を表しています。そしてこの分類ごとに取るべき学習方法が異なります。「学んだけれど実践につながらない」という課題の原因として、「得たい学習成果=実践」に対して適切な学習方法が取れていないケースが多々あります。この分類を理解したうえで適切な学習目標を立てることで、本当に得たい学習成果を得るための学習方法を意識的に選択できるようになります。なぜ学習成果の5分類が重要なのか「学んだけれど実践につながらない」という課題の原因として、「得たい学習成果=実践」に対して適切な学習方法が取れていないケースが多々あります。学習成果の5分類では学習のプロセスを体系的に整理したうえで、プロセスごとに得られる学習成果を明確に示しています。そのため、この分類を理解した上で適切な学習目標を立てることで、本当に得たい学習成果を得るための学習方法を意識的に選択できるようになります。またこの学習目標を意識することで、自分が何を学んでいるのか、どのような能力を身につけているのかを理解しやすくなります。学習成果の5分類の詳細1. 言語情報言語情報は事実や概念、原理などの知識を言語で表現できる能力を指します。これは「何かについて知っている」という状態を表し、記憶や再生に関わる学習成果です。例えば、歴史上の出来事や科学的な法則、専門用語の定義などが言語情報に該当します。言語情報の学習は主に講義やテキストの読解、暗記などの方法で行われますが、単なる暗記だけでなく理解を深めるための工夫=知識の背景情報まで抑えるなど、が必要です。言語情報の学習は基礎的な知識の獲得に不可欠であり、他の学習成果の基盤となります。しかし、言語情報を持っているだけでは実践できるとは限りません。「知っているけれど使えない」という状態は、この言語情報だけを持っている状態に他なりません。2. 知的技能知的技能は学んだ知識を使って問題を解決する能力を指します。例えば、ロジカルシンキングを使って現場の課題を特定する、デザイン思考で既存商品のユーザーニーズをあぶり出すなどが知的技能に該当します。知的技能の学習は基本的には実務の経験の中で培われることが多いですが、研修では問題演習、事例分析、実験などの方法でも行うことが可能です。実務以外で知的技能を高めるためには、演習課題ができる限り実際の現場で行うことに近いことがとても重要です。学んだことを実践したいという学習目標はこの知的技能に該当します。そのため、ただの言語情報の獲得だけではなく、何らかの形で自分の手を動かす学習方法を選択する必要があります。3. 認知的方略認知的方略は自分の学習や思考のプロセスを制御する能力を指します。これは「学び方を知っている」という状態を表し、問題解決の方法を考えたり記憶の仕方を工夫したりする能力が含まれます。例えば、効果的な学習計画の立て方、情報の整理方法、創造的な問題解決のアプローチなどが認知的方略に該当します。認知的方略はメタ認知を促す活動、問題解決のプロセスを振り返る機会、学習方法のワークショップなどを通じて学習が促進されます。4. 運動技能運動技能は身体的な動作を通じて表現される能力を指します。これは「身体を使って何かをする方法を知っている」という状態を表し、代表的なものはスポーツや楽器の演奏のスキルです。ビジネスの現場では、タイピングやプレゼンテーションなどが含まれます。運動技能の学習は身体的な活動を通じて行われ、繰り返しの練習と適切なフィードバックが重要です。実技指導、ビデオ分析、シミュレーション訓練などの方法で運動技能の学習が行われます。5. 態度態度は特定の対象や、状況に対する感情や行動の傾向を指します。これは「何かに対してどう感じ、どう行動するかを知っている」という状態を表し、価値観、信念、モチベーションなどが含まれます。例えば、学習に対する積極的な姿勢、チームワークを重視する態度、環境保護への意識などが態度に該当します。態度の学習は、直接的な指導だけでなく、ロールモデルの観察や実際の経験を通じて行われることが多いです。研修の現場ではグループワーク、ディスカッション、ロールプレイングなどの方法で態度の学習が促進されます。学習成果の5分類を活用した学習目標の設定各分類に応じた学習目標の立て方学習成果の5分類を活用して学習目標を設定する際は、各分類の特性に応じたアプローチが必要です。言語情報の目標では「~を説明できる」「~を列挙できる」といった表現を用い、知識の獲得を明確に示します。知的技能の目標では「~を分類できる」「~を解決できる」など、知識の応用を重視します。認知的方略の目標は「~の方法を考案できる」「~を評価できる」といった、高次の思考を促す表現を使います。運動技能の目標では「~を実演できる」「~を操作できる」など、具体的な行動を示します。態度の目標は「~に積極的に取り組む」「~を尊重する」といった、価値観や行動傾向を表す表現を用います。学習目標の具体例と評価方法各分類の学習目標の具体例と評価方法を挙げると、以下のようになります。言語情報:「問題解決のフレームワークを3つ以上列挙できる」(評価:筆記テスト)知的技能:「課題の特定をフレームワークつかって行うことができる」(評価:問題演習)認知的方略:「効果的な学習計画を立てることができる」(評価:学習計画書の作成)運動技能:「効果的なプレゼンテーションを行うことができる」(評価:実技テスト)態度:「グループワークに積極的に参加する」(評価:観察評価)これらの目標は、それぞれの分類に適した方法で評価することが重要です。学習成果の5分類と他の教育理論との関連性ブルームの教育目標分類法との比較学習成果の5分類は、アメリカの心理学者であるブルームが中心となってまとめた「目標分類学」(ブルームタキソノミー)と比較されることが多いです。ブルームの分類法は、認知領域、情意領域、精神運動領域の3つの領域に分けられており、特に認知領域では知識の階層性を強調しています。一方、ガニェの5分類は、学習の種類に焦点を当てており、それぞれの学習成果が互いに関連しながらも独立した能力として扱われています。ブルームの分類が主に教育目標の難易度や複雑さを示すのに対し、ガニェの分類は学習の性質や種類を明確にするのに適しています。どちらかというよりも、両者を組み合わせることでより包括的な教育目標の設定と評価が可能になります。アンドラゴジーとの関連性学習成果の5分類は、成人教育理論であるアンドラゴジーとも密接な関連があります。アンドラゴジーでは、成人学習者の自己概念、経験、学習レディネス、学習への志向性、動機づけを重視しますが、これらは5分類の各要素と結びつきます。例えば、アンドラゴジーが強調する経験の活用は、5分類の知的技能や認知的方略の発達に貢献します。またアンドラゴジーの問題中心的アプローチは、5分類の知的技能や態度の形成と関連しています。5分類を成人教育に適用する際は、アンドラゴジーの原理を考慮し、学習者の自律性や経験を尊重しながら、各分類の学習成果を追求することが効果的です。アンドラゴジーに関してはこちらの記事も参考にしてみてください。%3Cdiv%20class%3D%22iframely-embed%22%3E%3Cdiv%20class%3D%22iframely-responsive%22%20style%3D%22padding-bottom%3A%2071.2791%25%3B%20padding-top%3A%20120px%3B%22%3E%3Ca%20href%3D%22https%3A%2F%2Femprony.com%2Fskillpocket%2Fandoragogy%22%20data-iframely-url%3D%22%2F%2Fiframely.net%2FIjP8gj1%22%3E%3C%2Fa%3E%3C%2Fdiv%3E%3C%2Fdiv%3E%3Cscript%20async%20src%3D%22%2F%2Fiframely.net%2Fembed.js%22%3E%3C%2Fscript%3Eまとめ学習成果の5分類は学習者が獲得する能力を体系的に理解し、効果的な教育プログラムを設計するための強力なツールです。上手に活用することで、知識の獲得から実践的なスキル、さらには学習者の態度形成まで包括的な学習目標を設定することができます。学習者としてなにかを学ぶ際、また教える側として研修を企画する際にはぜひこの5分類を意識するようにしてみてください。