これまでの経験を元に社内研修を企画しているけれど、どうも評判が良くない...それはもしかしたら大人である社員に対して、学校で行われるような形式的な学びを提供してしまっているからかもしれません。義務教育で経験する子どものときの学びと、大人になってからの学びではその特性が大きく異なります。この特性を無視して義務教育のイメージで研修を設計してしまうと、どれだけ内容が良くても評判が悪くなってしまう可能性が高くなります。今回はこうした課題を解決するヒントとなる、大人の学びの理論「アンドラゴジー」をご紹介します。アンドラゴジーとはアンドラゴジーの定義と概要アンドラゴジーは成人教育学とも呼ばれ、大人の学習者を対象とした教育理論のことを指します。アメリカの教育学者マルカム・ノールズによって提唱された理論で、子どもの教育である「ペダゴジー」とは異なるアプローチが必要だと主張しています。マルカムは大人の学習者は自律性が高く、豊富な経験を持ち、学ぶ準備ができており、実生活に即した学びを求めていると指摘しました。リスキリングを経験したことがある方はこの指摘に納得される方も多いのではないでしょうか。特に社外のリスキリングの現場、民間スクールなど、では受講生が自分のお金を払うことを自ら決断していることが多く、主体的かつ自律的に学ぶ姿が良く見られます。こうした自律的な「大人の学習者」に対しては教える側が学ぶ側を管理するといったマインドではなく、学習者主体の学びを重視し、学習者の経験を活かしながら実践的な知識やスキルの習得を目指すことが必要だとされています。子どもの学び「ペダゴジー」との違い子どもの教育であるペダゴジーは、教える側が知識を持ちそれを伝えることが中心となる考え方です。一方アンドラゴジーでは、学習者自身が持つ経験や知識を重視しそれを学習に活かすことが重要だと考えられています。またペダゴジーでは教師が学習内容や方法を決定するのに対し、アンドラゴジーでは学習者が自分のニーズに合わせて学習内容や方法を選択することが推奨されています。さらにペダゴジーでは外発的な動機づけ(試験や評価など)が重視されるのに対し、アンドラゴジーでは内発的な動機づけ(自己実現や問題解決など)が重視されます。アンドラゴジーの5つの特性1. 自己概念アンドラゴジーでは大人の学習者は自律的で自己決定力があると考えられています。そのため学習者が自分の学習ニーズを把握し、学習目標を設定することが重要です。教える側は学習者の自主性を尊重し、学習をサポートする役割を担います。2. 経験大人の学習者は子どもよりも多くの経験を持っています。アンドラゴジーではこの経験を学習に活かすことが重要だと考えられています。学習者同士が経験を共有し、ディスカッションを通じて新たな知見を得ることができます。3. レディネスアンドラゴジーでは大人の学習者は、必要に迫られたときに学ぶ準備ができていると考えられています。仕事や生活における課題を解決するために、新しい知識やスキルを学ぶことに前向きです。4. 学習への志向性子どもの学習が教科中心であるのに対し、大人の学習は問題中心であると考えられています。アンドラゴジーでは学習者が直面している現実の問題を解決するための知識やスキルの習得に重点が置かれます。5. 学習の動機づけアンドラゴジーでは大人の学習者は内発的な動機づけを持っていると考えられています。自己実現や問題解決など、自分自身の成長につながる学びに価値を見出しています。外発的な動機づけ(報酬や評価など)よりも、内発的な動機づけが学習の原動力となります。アンドラゴジーを活用した企業研修の効果と課題アンドラゴジーに基づく研修の効果アンドラゴジーに基づく企業研修は従来の講義中心の研修に比べ、参加者の主体性や能動的な学びを引き出すことができます。参加者は自分たちの経験や知識を活かしながら、実践的な問題解決能力を身につけることが可能です。また内発的な動機づけに基づく学習は、学習内容の定着や実務への応用も促進します。アンドラゴジーを活用した研修は、社員の能力開発や組織の問題解決力の向上を期待することができます。アンドラゴジーを適用する際の課題と留意点一方でアンドラゴジーを企業研修に適用する際には、いくつかの課題や留意点があります。まずアンドラゴジーは、学習者の自律性を重視するため参加者の学習への姿勢や動機づけが不可欠です。全ての社員が自発的に学ぶ姿勢を持っているとは限らないため、動機づけや学習サポートの工夫が必要です。またアンドラゴジーに基づく研修では、講師はファシリテーターとしての役割が求められます。従来の知識伝達型の講師とは異なるスキルが必要であり、講師の育成や研修が必要となります。さらにアンドラゴジーを取り入れた研修プログラムの設計や教材開発には、時間と労力がかかります。組織として長期的な視点で研修体系を見直し、必要なリソースを投入することが求められます。まとめ:企業研修をアンドラゴジーで最適化するアンドラゴジーは大人の学習者の特性を踏まえた教育理論であり、企業研修にアンドラゴジーの原理を取り入れることで、社員の主体的な学びを引き出し実践的な能力開発を促進することができます。アンドラゴジーの理論と実践を深化させることで、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、組織全体の問題解決力や競争力を高めることも期待できます。今後研修を企画される際はぜひこの考え方を活かしてみてください。